ジローの部屋

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【短編小説】 増本優芽の事情①

いらっしゃいませ。ご訪問ありがとうございます。

こんにちは、ジローです。

いつもたくさんの星、ブクマやコメント、本当にありがとうございます!

ジローは、今年の目標だった短編小説をなんとか書き上げました。
全4話のお話でございます。
小説なので、登場人物名は架空のお方。
お名前がもし同じだった方、ドキッとするだけですのでご容赦下さい。

いつもより、少々長めのものですが、どうか温かい目でのお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。


では、第1話をどうぞ。





増本優芽は、悩んでいた。


彼女には二人の子どもがおり、上の子の良平は小学4年生で、下の子の颯太は幼稚園の年長組。
まだまだ颯太は手のかかる年代だ。
良平は、面倒見がよく弟を連れて、いつも遊んでくれていた。
周りからみれば優しいお兄ちゃん。
近所のママ友も誉めてくれる。

しかし、彼は学校ではものすごく引っ込み思案だった。
先日の参観日も、モジモジしてなかなか発表が出来ない。参観日で緊張しているのかと思いきや、そうではないようだった。
参観日の後であった面談で、担任の女性教師から、
「良平君はもう少し勇気がもてたらいいのですが…」という話を聞いた。


そう、これまでも各学年の担任の先生が話題にすること。
それは、やはり
「もう少し勇気が持てたら」という話だった。
まるで申し継ぎでもされているかのように、毎年同じことを言われる。



キッチンで夕食を作っていると
「お母さん、家の外で颯太と遊んでくる!」と元気よく言って、颯太を連れて遊びに行ってくれる。
「ほんとなんでこんなにやってくれるのに、学校では自信が持てないんだろう」
はぁ、というため息が、もはや日課にさえなっている。


夫は非常に楽観的。
相談しても「そのうちなんとかなるよ」という答えしか返ってこない。
いつも相談するんじゃなかった、と後悔していた。
「どうやったら自信を持てるようになるんだろう。」
そう思って考えはするけれど、普段の生活が迫ってくるため、ゆっくりと考える時間がない。
結局考え出すけど解決策は思いつかず、また「はぁ」とため息をついてしまう。



普段と変わらない平日の夕方。
習い事に興味を持たない良平は、普段通り颯太を連れて家の前で遊んでくれていた。
少し目が離れているが、窓を開けていれば、家の近くにいるので声は聞こえる。
優芽は、夕方に一気に家事を終わらせようとしているので、颯太を遊びに連れていってくれることは本当にありがたかった。

家の前は生活道路になっていた。
袋小路になっているため、隣近所の車を除けば、他の車がくることはほぼない。
そして、道路を挟んで向かいには田んぼが一面あり、その先にこの地区の抜け道になっている道路がある。

この道は、高校生が自転車でよく通る道路だが、それなりに車の往来があり、良平には絶対にこの道までは行かないように、口を酸っぱくして言ってきた。
時々スピードを出しているような、車の通り過ぎる音が聞こえるときがある。
そんなときは、もしやと思って外に出てみるが、良平は颯太とちゃんと家の前で遊んでくれていた。


その日、優芽は晩ご飯のカレーを煮込んでいた。
コトコト、と心地よい音が鍋から聞こえてくる。

すると、聞き慣れない音が、外から聞こえてきた。



キキーッ、ガシャーン。



えっ、と思って耳を澄ます。
シーンとした静寂と、鍋からはコトコトという音が続いている。


聞き慣れない音。
変な胸騒ぎがする。


もう一度思い出してみた。


やっぱり胸騒ぎが収まらない。



慌ててガスを消して、キッチンの戸締まりをして、彼女は玄関へと走って行った。

そうすると、血相を変えた良平が走ってきて、あわや出会い頭にぶつかりそうになった。
彼女は慌てて良平を受け止めて
「颯太は?」と聞く。
そうすると、颯太も兄に続いてかけ込んでき、リレーのゴールみたいな状態になった。

二人とも無事なので、優芽はホッとした。

しかし、良平はホッとなんかしていなかった。
「お母さん、大変や。お姉ちゃんがケガしてる!」

彼女は安心感から一気に現実に戻された。
「どこ」
良平に聞くと、彼は答える前に反対方向へ走り出した。
慌てて颯太を抱きかかえ、ついていく。


良平は20メートルほどの畦をかけていく。
その先には、倒れた自転車とうずくまる女子高生。スカートから伸びた両足には出血が見られ、痛そうに足を抱えて、半泣きになっていた。
「大丈夫」と声をかけると、女子高生は泣き崩れてしまった。
自転車は前輪が変形し、もはやこぐことはできない形状になっている。

優芽はどうしたものかと思案していると、良平がこういった。
「このお姉ちゃんな、車とぶつかってん。
ぶつかった車な、ぶつかってからあっちにいってもてん、痛かったなぁ、大丈夫、お姉ちゃん」
優芽は、少し前の記憶を思い出した。


ブレーキのような音、ぶつかったかのような衝撃音、そして息子の話。
これって…。
どうかんがえても、テレビでニュースになってるひき逃げじゃないの。


彼女は持っていたスマホを取り出した。
110番なんてしたことはないのに、と思いながら、1、1、0とプッシュする。
コール音は1回。
すぐに、ガチャッとつながった音がして、電話の向こうの声が話し出した。

「はい110番です。事件ですか、事故ですか」


~第2話へ続く。

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