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さて、今回は、短編小説全4話の、最終話。
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では、最終話をどうぞ。
「良平君が、良平君が今日はまるで、別人だったんですよ!!」
優芽は、これまでと違った担任の勢いに圧倒されている。
担任は
「皆の前でハキハキしゃべるし、自分から発表して元気よく答えていたし、クラスのみんなが本当にびっくりしていて。
良平君に、どうしたのって聞いても、
「昨日ファインプレーやってん」
と言って笑っていて。
こちらも、すごく楽しい1日になったんですよ」
と続けた。
優芽は、わけがわからないが、ファインプレーだけは心当たりがあった。
優芽は、昨日あったことについて話していった。
事故のこと。
警察官とのやりとり。
女子高生のお母さんの話。
電話越しの担任は、「うんうん」と言って嬉しそうに話を聞いてくれた。
「そうだったんですか、すごいな、良平君。
がんばったんですねぇ。」
優芽は、電話を切ると、ちょっとこそばくなってきた。
何というか、笑わずにはいられない。
そして、飛び跳ねてしまった。
「やったー!」
「良平が、良平が、すごくない?」
と勢い余って、積み木をしている颯太に言ってみた。
颯太は、訳がわからず、ポカンとしている。
優芽はお構いなしだ。
何せ数年の懸案事項にようやく明るい先が見えたのだ。
「良平が、やったー!」
週末に、また担任から連絡があった。
ちょっと声が、曇っている。
どうしたんだろう、と思うと担任は少し言いづらそうにしていた。
優芽は少し考えて
「また、元に戻っちゃいましたか。もぅ、困ったなぁ、良平は」
と少しおどけて、言ってみせた。
優芽は、全然学校の様子は見てないし、聞いてもいなかった。
でも、言いづらそうにされているのは、そんなことなんだろうな、と思いながら、一方で、できれば、それを否定して欲しい。
担任は
「実は、そうなんです。」
と切り出した。
優芽は、やっぱりかぁ、とため息をついた。
「お電話をした翌日くらいまではよかったんですよ。皆の前でも話が出来るし、発表もしていたし、声もハキハキしていて。
でも昨日、今日と少しずつもじもじしてしまうと言うか、そういったのが見えはじめてまして。
せっかくの良平君の良い変化なので、私もなんとかこのままいってほしくて。
それで、おうちの方からも良平君へのお声かけをお願い出来ませんか。」
彼女の、まっすぐな気持ちが突き刺さる。
優芽は
「わかりました、家でも話をしてみます。ほんとこのままいってほしいですし。」
と答え、電話を置くことにした。
さて、なんだかこの感じ、以前にもあったような。
どうしたもんかなぁ。
ぼんやりと、遠くを眺めてしまった。
窓の外は、空が青から赤く変わり始めていた。
ふい、外で良平の声がした。
優芽は外に出てみると、ワンボックスのパトカーが停まっていて、雨宮と名乗っていた警察官が、良平と颯太と話をしている。
彼は優芽を見つけて挨拶してきた。
「お母さん、先日はご協力ありがとうございました。
女子高生の子は、手術が成功したようですよ。」
と、教えてくれた。
ちょうど昨日、彼女の母親から電話があったところだ。
「そうでしたか。今日お見舞いに行ってきたのですが、もう今日からリハビリが始まっているそうで、あれだけ辛い思いをされたのに、もう前を向いておられるので、その姿に感心してしまいまして…」
と話し出す。
この人、なんだか警察官というイメージの人とは、どこか違う。
優芽はそんなことをぼんやり思いながら、話をしていた。
彼は、そこから
「今日は先日のお礼にお伺いしました。まだ犯人は捕まっていないのですが、良平くんの話から、今詰めの作業をしているところです。本当に助かりました。」
麻美ちゃんをはねた犯人はまだ捕まっていない。
手術までさせるようなケガをさせたのに、もしあの場に良平がいなければ、どうなってただろう、と改めて考えると、本当にかわいそうだと思う。
雨宮は、詰めの作業をしていると言っていた。
早く捕まってほしい、と切実に思う。
雨宮は
「できることなら、感謝状とかを渡したいところなのですが、まだ事件解決には至っていなので、今はまだできません。
ただ、先日はだいぶ勇気を出して頑張ってくれたと思うので、お礼のプレゼントを持ってきたのです。」
彼はそういって、小さな包みを良平に渡した。
良平は
「うわぁ、やったぁ」
と言って喜んでいる。
優芽は、この展開は全く想像していなかったのでどうしたものかとまどったが、彼はその様子を見て
「お母さん、これは私のポケットマネーでも、ましてや黒いお金でもありません。」
と言って笑っている。
「警察もたまには、こんなことするんですよ」と言って、車に乗り込んで帰って行った。
あの人は、何しに来たんだろう。
優芽は、良平と家に入って、小さな包みを開けてみた。
そこには、図書カードと一枚の名刺が入っていた。
良平が名刺を裏返すとメッセージが書かれていた。
良平はそれを、机のマットに敷いて飾っている。
あれから、何度か担任の先生から連絡があった。
ただ、もう以前のような、引っ込み思案な様子の話を聞くことはなかった。
名刺の裏に整った字で書かれた
「勇気をありがとう。」と「大きくなったらまた会おう」
絶妙なタイミングで現れた彼と良平は、いつの間にかそんな話をしていたようだった。
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終。
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