ご訪問ありがとうございます。
いつもたくさんの星、ブクマやコメント、本当にありがとうございます!
今回も、短編小説の続きを。
これまでの1話、2話を未読の方はこちらのリンクからどうぞ。
surrealsight.hatenablog.com
surrealsight.hatenablog.com
さて、『神様が仕掛けた、忘れ物』と題打った6000字制限の短編小説。
では、最終話を、どうぞ。
正太郎は、高校でまたサッカー部に入部した。夕方までグラウンドを駆け回り、部活が終わるとひたすら自転車をこいで、家までのけっこうな距離を帰る。何日かやってみたが、疲れ切った身体にはこの長距離の自転車通学はけっこうきつい。
その日、正太郎は部活が終わって帰る前に忘れ物に気がついた。そのまま忘れて帰ると宿題が出来ないので、教室に戻ることにした。
教室は昼間の喧騒が嘘のように静まりかえっている。イスを引くだけで教室内に、大きな音が響く。
正太郎は必要なものを取って、もう一度大きな音を立て、荷物を担いで教室を出ようとした。
その時、廊下に女子生徒がいて、ぶつかりそうになり、正太郎はとっさに
「あ、ごめん」
と言って頭を下げて謝ったが、相手の反応はない。正太郎は
「ほんとに、ごめん」
と謝って、立ち去ろうとすると背中越しに
「来てたんだ」
という言葉がぶつかってきた。
正太郎は、顔を上げて振り返った。
真新しい制服に身を包み、髪を後ろでまとめ、金管楽器を入れたケースを持った女子。
目を丸くして、眼前の光景が信じられないというような表情をして、こちらを見つめている。
彼女はもう一度
「来てたんだ」
と言った。
昔、毎日のように聞いていた、当たり前にあった声。ある日突然、当たり前じゃなくなった声。
少し懐かしくもなってしまったその声の主は紛れもなく、石野早矢香、本人だった。
「さや、か。」
正太郎も完全に不意打ちを食らった形になり、続く言葉が出てこない。
もしかしたら、もしかしたらどこかで、を正太郎は期待していた。ばったり近所で、ばったり図書館で、ばったり高校で…、再会出来るかも知れない。
しかし、会ったところでどうするんだろう。早矢香には早矢香の生活があって、友達がいて、彼氏もいるだろう。その時に、自分はどうするんだろう。
そこから、この3年近くの時間で考えた結果は、「嫌われたんだから、邪魔をしてはいけない」だった。
だから、だから、だから…。
「じゃあ」
と言って正太郎は立ち去ろうとした。
「待って。」
「やっぱり嫌われてるよね。」
嫌われてる?
「あの時さ、ブラバンの先輩から告られた話をしたときに『付き合っちゃえば』って適当に言ってたよね?後で考えて、正太郎の様子を思い出して、うち、なんであんなこと言っちゃったんだろうって。」
適当に言ってたの、わかってたのか。
「そりゃ嫌だよね、何度もそんな話聞かされてさ。自慢みたいに思うよね、嫌なやつだって。だから、そんなにいい人なら付き合っちゃえばって言ったんでしょ?」
「うちは、絶対に嫌われたと思って。何度も謝ろうと思ってメッセージを作って、送りかけて、消して。やっぱり会って謝らないとって思ったけど、連絡してやっぱり完全に嫌われてるってわかったら、もう立ち直れないと思って。
どこかでばったり会ったら、謝れるかなって期待して、もしかしたら高校で会えるかもって思って、一生懸命勉強してここに受かって。でも高校の同じクラスになんて奇跡は起きないし。だから、もう会えないと…思って…た」
「ごめんね、あの時は嫌な思いさせて。高校でもサッカー、やってるんでしょ?頑張ってね。」
そう言って、今度は早矢香が帰ろうとした。
「嫌われてるって思ってたのは、こっちの方。」
そういうと、早矢香は足を止めた。
「もしかしたらどこかで会えるかもって思ってたのも、こっちの方。」
そういうと、早矢香はこちらに振り向いた。
「高校が同じになるかもって思ってたのも、こっちの方。」
そういうと、早矢香は目に涙を溜めだした。
「あの時はごめん。俺、ほんとに素直じゃなかったよ。神様っているんだな、全部ひっくるめてさ、今奇跡が起きたよ。」
そういうと、早矢香の両眼にたまった涙は下へ、下へと流れ出した。
正太郎は近づいて、早矢香の頭をポンポンとする。そして、左手の指の背でその涙を拭った。
「帰ろうか。夢、なんだろ?」
「憶えてたんだ…」
「これでも必死に勉強した、なんせ模試もE判定やったから。ほんと早矢香、賢すぎ。せめてレベル落としてくれよって思ったね」
そういうと、早矢香は涙を手の甲で拭いて微笑んだ。
「小学校の時、成績悪かったもんね」
「そういうところは忘れてくれたらいいんだよ。だいたいさ、選ぶ高校遠すぎるんよ。チャリで何分かかると思ってんの?」
「ひっどーい、それうちのせいなわけ?こうしてなかったら、再会出来なかったんだよ。むしろ、感謝しなさいよ」
そういうと、早矢香はふくれだした。
「うちの夢って、彼氏とってところなんだけど」
「あ″、じゃあ今日はってことで」
「え?何それ、明日は?」
「うーん、じゃあ明日も。早く帰ろうよ」
「ちょっと待ってよ、1週間後は?」
やっと、時間が動き出した。
すれ違うことなく、ちゃんとまたつながって。
大きな国道の交差点まで帰ってきた。
「じゃあ、またね」
と正太郎がいうと
「また、連絡するから!」
と早矢香が笑顔で思いっきり手を振っている。
国道を渡り終えて、スマホの通知音がした。
『連絡しちゃった』
というメッセージと、嬉しそうな表情のアイコンがポップアップ表示されている。
「だから、連絡、早いって」
正太郎はツッコみながら、スマホをポケットに戻した。
なんだか、すごく安心した。
こんな穏やかな気持ちは初めてだ。
思いが通じると、こんなにも嬉しいものなんだな。
『神様が仕掛けた、忘れ物』終わり
あとがきへ。
ご意見、直接の感想、ご要望等は下記のリンクからどうぞ。
お問い合わせ - ジローの部屋
ポチッとお願いします🙇
ブクマコメントありがとうございます!
>まっこおばさま(id:makkosan70)
ありがとうございました!あぁ、よかった、は読み手の方に残ってほしかったものです。朝に読んで、今日も1日がんばろっととなるように。
また書きますね。
>Pちゃん(id:hukunekox)さん
ありがとうございました!一応ハッピーエンドで終わるように設定してました。朝から、ちょっといい気分になれるように。この続きは恥ずかしくて書けません😅ぎりぎり限界のところです笑
>へんげ(id:nunohenge)さん
ありがとうございました!私もこのコンテストなかったら、たぶん書いてなかったと思います。ちょっとキャラ外のところもありまして。ただ、チャレンジしてみて心情描写とか勉強になりました。今後の創作にいい刺激になりました!
>ちまりん(id:chimaring)さん
ありがとうございました!お楽しみいただきまして、感無量であります!きれいにつながるか、ちょっと苦戦したんですけど、うまく時間がつながってくれました。また創作やってみますので、よろしくお願いします。
>DIT井上(id:ditinoue)博士
はてなの方は温かいので、たくさんのコメントなどをいただきましたよ。また書こうというモチベをたくさんいただきました✨