ジローの部屋

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日頃の生活に、何かプラスになることを。

【短編小説 神様が仕掛けた、忘れ物②】ループする、セリフ

ご訪問ありがとうございます。

いつもたくさんの星、ブクマやコメント、本当にありがとうございます!



さて、今回は、短編小説の続きを。

この話は3話ものなので、明日で完結します。
第1話を未読の方はこちらから
surrealsight.hatenablog.com


では、第2話をどうぞ。


















 相変わらず早矢香からのメッセージは夜になるとたくさん来る。しかし、ここのところ少し減ってきていた。新しい学校、新しいクラス、新しい友達、新しい部活に慣れていくのにはかなりの体力もいる。

 トロンボーンを選択した早矢香はその音色について、熱く語っていた。しかし、文化部に入ったのに筋トレもやるらしく、それがかなり参るらしい。

「もう、やんなっちゃう」

というメッセージは、いつもの感じでため息をつきながら言っている早矢香が目に浮かぶ。



 正太郎の中学校生活は、ほとんど知り合いがいない状況から始まった。しかし、同じサッカー部に入った人や席が近い人達と次第に打ち解けていく。話している中で、うっかり「早矢香」と言いそうになり適当にごまかしたことがあった。そういうときに、早矢香とは違う環境なんだと改めて気付く。



 一学期も終わりかけた頃、休みの日に久しぶりに早矢香と図書館で、夏休みの宿題をさっさとすませよう、という話になった。


 正太郎は集合時間よりもずいぶんと前に着いてしまった。いかにも「待っている」という感じを出したくなくて、図書館で借りていた文庫本を手に取った。


「おはよっ、早くない?」

という聞き慣れた声がして目線を上げると、早矢香が正太郎の持っている文庫本をのぞき込もうとしていた。時計を見ると約束の時間の30分前。

「そっちこそ、早いやん」

と返すと早矢香は

「絶対、うちの方が早いと思ったのに」

と言いながら悔しがっている。


 なんだか、こういうのが懐かしい。


 

 宿題を片付けて、遅めの昼食を外の木陰で食べることにした。ちょうどいい大きな石があつらえてあり、そこに腰掛けた。

 昼食と言っても、コンビニで買ってきたパンやおにぎり。こんなものでも、今日はなぜかいつもより美味しく感じる。


 相変わらず、早矢香はよくしゃべる。


 こんなに話していたっけ?いや、いつもこれくらいだったかも知れない。


 正太郎はそんなことを考えながらコーヒーを飲んでいると

「ところで、正太郎は彼女出来たの?」

と早矢香が聞いてきたので、思いっきりコーヒーを吹き出してしまった。


 正太郎は気を取り直して

「いるわけないだろ、そんなに女子と話さないし」

と答えると、早矢香は自分のことを激しく指さし続けているので

「中学は」

と付け加えた。


「なーんだ、正太郎はけっこうモテそうなのにな」

と早矢香はつぶやいている。

「そっちこそ、どうなんよ。昔からよくモテてたからまた誰かに告られたんじゃない?」

と冷やかし半分にいうと早矢香は急に何も言わなくなった。

 そして、『どうしたんだ』と思って早矢香の顔をのぞき込むと

ブラバンの先輩に、昨日告られた。」

とつぶやいた。また、暗い表情で。





「さっすが、中学でもモテるなぁ。カッコいいんだろ、その人」

と、正太郎は少し考えてから、棒読みのセリフで返した。


 早矢香はその表情のまま

「うん、頭もよくて次期部長になる人。とても優しいし、ファンの子もいっぱいいる」

と言った。




「へぇ、すごいな。じゃあ、付き合っちゃえば」



 脳内に「ちゃえば、ちゃえば、ちゃえば…」と言葉がループしていく。棒読みのセリフのままで。


 

 すると、隣で座っていた早矢香がこっちに向かって急に立ち上がり、

「正太郎はそれでいいの?」

と真剣な表情で聞いてきた。



「へっ?」

 不意打ちを食らって、正太郎は間抜けな言葉を発してしまう。


「ほんとに、それでいいの?」


「いいのって、それは俺が決めることじゃ…」

「私は正太郎に聞いてるの!」




 正太郎は、うつむいた。早矢香の視線に耐えきれない。そして、少し考えてうつむきながら

「そんないい人、もう会えないかもよ」

と、適当に答えた。




 ポタッポタッと、乾いた地面に水滴が落ちてきた。

 正太郎がはっと顔を上げると、早矢香は抱えきれない涙を、頬に伝わらせて地面に落としている。



「そんなこと、聞きたくなかった」



 早矢香はそう言って、走っていった。








 なんであんなことを言ってしまったんだろう。


 考えても答えは出ない。

 確実なことは、あれから早矢香からの連絡は来ない、ということだった。



最終話へ続く。



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ブクマコメントありがとうございます!
>まっこおばさま(id:makkosan70)
懐かしさをありがとうございます!正太郎は何やってんだかなんですけど、やりがちなんですよね。素直じゃないと。さて、最終話へ。

>育児猫(id:ikujineko)さん
育児猫さんは逆走系でしたか。私もけっこうそうでした。これ、ほんとに損しますよね。後悔してばっかりで😅

>研究者せしお(id:Seshio-Researcher)さん
落として来ました。そして、最終話で回収がなかなか出来ずさまよってました😓落としてからの、最終話。予想通り、となりますでしょうか。

>テイルズ(id:MyStory)さん
おかえりー!既に口の中は甘酸っぱい感じでしょうか。柑橘系の香りが似合いますね!1話、2話を振りにしての最終話。予想との答え合わせをお楽しみ下さいませ。

>Pちゃん(id:hukunekox)さん
短編なので、あっという間の展開です。早矢香の想いに気付いているのか、自分のことを言うことだけに戸惑っているのか。さて、最終話へ参ります。楽しんでもらえると幸いです✨

>DIT井上(id:ditinoue)博士
正直、小学生の知り合いがいるわけでもなく、中学の知り合いがいるわけでもなく。そうだ、博士がいた、と思って完成したときに博士の感想を楽しみにしてました✨