ジローの部屋

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【電車のひと短編⑨】背中で語りかける、ひと

 

 

 さて、今回は電車のひと編。

 

過去編は以下の記事からどうぞ。

surrealsight.hatenablog.com

 

さて、本日のお客様は、初老の男性。

 

では、どうぞ。

 

 

 

コロナで通勤に制限がかかる以前の頃。

 

 

 

時々、電車には小さな子どもを抱っこした女性が乗っている。

 

筆者も子どもが小さかった頃、抱っこ紐で何度も電車に乗ったことがあるが、子どもが泣き出すとかなり辛い。

 

上手く泣き止めばいいが、そんな大人の事情に子どもはかまってはくれない。

 

泣き止まなかったら最後、周りの白い目が突き刺さる。

 

 

ただでさえ、抱っこで熱いのに、さらに変な汗をかくんだよな。

 

 

 

 

筆者から、彼女までの距離はドア1つの空間があった。

 

ちょうどとなりの対角線のドアの付近に、彼女は立っていたわけだ。

 

 

筆者は立って資料を読んでいた。

 

電車は、レールを刻む音を立てている。

 

 

 

 

しかし、違う音が、しばらくして立った。

 

子どもが少しぐずついた声を出す。

 

声はやはり、彼女のところから聞こえてきた。

 

 

周りのサラリーマン風の男性は、何人かが怪訝な顔をしている。

 

そんな表情見せるなよ、と思いながら、筆者は資料に目を落とした。

 

 

 

すると

 

どうぞ、どうぞ

 

と声がする。

 

 


資料から目をあげると、声からすると初老の男性と思われる、やや斜め向いた背中が、前向きに抱っこした赤ちゃんを連れた彼女に、席を譲っていた。

 

まわりは無表情にスマホを覗くサラリーマン。

 

 

彼女は遠慮したが、しかし席を譲りたいその男性は

 

まぁいいから

 

と。

 

 

そして

 

かわいいね

 

と声をかける。

 

 

まだしゃべれない子どもは少し声をだす。

 

 


何回か赤ちゃんが声を出すと隣のサラリーマンが、ちらっとその様子を見た。

 

 

 

無表情な表情が崩れて

 

こんにちわ

 

と声をかける。

 

 

赤ちゃんは

 

あー、あー

 

と返事が返していた。

 

 

 

 

席を譲った、初老の男性は嬉しそうな声で、

 

何ヵ月かな

 

と話しかけていた。

 

こちらから見える彼女は、少し安心した表情をしている。

 

 

 

 

電車は大きな駅に到着した。


電車が停まると、立ち上がった母親と交代して、初老の男性がまた席に座る。

 

 

こちらから背中しか見えてなかった彼は、スマホを見つめるまわりとは、違った表情をしていた。

 

追伸

ジローの部屋は、開設から気がつくと4ヶ月が経過していました。

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