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さて、今回のお客様は、かけこんできた若い男性。
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では、11話目をどうぞ。
春の陽気に包まれている休日の阪急電車。
途中大きな駅で普通電車から特急電車に乗り換える。
平日と違って、仕事着やスーツ姿の人は少なく、どこかおでかけの様子のひと達が多く乗っていた。
明日の天気予報は雨。
満開になった桜は、短命であれば明日にも散ってしまうかもしれない。
朝の電車は、いつもより少しすいている。
筆者はドア横の壁際が空いていれば、いつもそこに立つ。
今日は、立っている筆者のそばの、ドア横の座席が2人分空いていた。
そして、そこに
10本ほどの鍵がついた鍵束
があった。
筆者は乗車する際にすれ違った人を思い出そうとしたが、男性だったような気がするだけで、特徴までは憶えていない。
一つの輪っかに、ジャラッとついた鍵。
倉庫とシールが貼ってあったり、事務所のドア用と思われるようなものだったり、がついていた。
うーん、どうみても無くしたら困る代物だろうな。
と思っていると、その鍵がある隣の空きスペースに一人の男性が座った。
男性は鍵束に気付いていない、
この人のものではない。
ドアが閉まる音がして、プシューというエアーの抜ける音がする。
その時に、また一人かけ込んできた若い男性がいた。
右手にスマホを持った彼は、座席の空きスペースを見つけて座ろうとし、鍵束を見つけ、一時停止した。
そして、座ろうか座るまいか、二度ためらった。
どうも鍵の持ち主ではないらしい。
彼はためらった後、その席に座った。
鍵を少しだけよけて、少し前目に腰掛ける。
電車は動き出している。
鍵の様子を気にかけている人はいない。
彼はスマホをさわりだし、その姿勢のまま次の駅に向かった。
途中一度振り返って、お尻の先の鍵束を気にしたが、後は何事もなかったかのように、スマホを見ている。
電車は大きな駅に到着した。
どっと人が降りていき、彼も立ち上がって降車していく。
座席はまた人がいなくなり、鍵束だけが残った。
筆者は鍵束を拾い上げて、予め発見時間と発見場所を書いたメモとともに、大きな駅の駅員に渡す。
どうか、持ち主の元へ帰って行きますように。
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