ジローの部屋

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日頃の生活に、何かプラスになることを。

長方形の、灯り 後編

今回は、前回記事
surrealsight.hatenablog.com
の続きを。

人身事故の影響で振り替え輸送となり、普段乗らない電車に乗ると、電車内で女子高生の近くにiPadを持っている男性がいて、どうもその人の動きが不自然で、女子高生の方へ下から四角い灯りがついている、という話。

では後編を、どうぞ。






















「お前、何やってんだ」


近くに立っている4人の顔が一斉にこちらに向く。
肩に手をかけられた人は引きつった表情を、壁際の3人は驚いている表情を見せていた。


「これ、何やってんだ」
開いた鞄の口を指さして、もう一度聞いてみた。

「えっ、あっ」
と男性の表情に動揺が広がる。

「お前、何やってんだ、これ」
「なんで、こっちに向かってずっと光ってんだ」

状況を理解したのか、女子高生が少し後ずさりする。
その男性は

iPadをみてただけ…」
「そんなこと、聞いてねぇ。見てたからわかってるわ。」
スマホみせてみろよ」

慌てて両手で操作して、パスワードを入力し出す。

入力が、長い。

アプリの一覧を操作して、グーグルフォトを見せてきた。
少し上ずった声で

「ほら、何もないじゃないですか」

パッと見て、20代後半ぐらいだろうか。
私服で1メートル以上に伸ばした肩紐の鞄。

いくつかの写真が入っているところを見せてきたが、当然そんなところには残らないんだろう。


シャッター音がない、動画の赤ランプが光らない、そんなアプリが世の中にはあって、そういうのをそういう人達が使っていることは知っている。

が、具体的にどんなアプリを使っているかは、そういえば知らない。

「そりゃ、こんなところにはないやろう。他のアプリにのこってんじゃないのか」


男性は一度消したスマホの画面を再度光らせ、また長いパスワードを入力する。アプリの一覧らしきものを開いてスクロールさせている。
「僕はiPadを見ていただけで…」


「じゃあ、なんでずっとこの子の横にひっついでんだ」
「なんでライトがずっと足に当たってんだ」
「他の乗客が乗り込んできて、女子高生が微妙に位置をずらしたら、あとからお前がこの子の横になんで位置をあわせるんだ」
「これだけ車内は広いのに、常に背後に立ってるやないか」
「なんで鞄を置くときだけ、鞄の位置を振り返って見るんだ」
「なんで鞄のあいた口が、常にこの子の方にむいてるんだ」


「しばらく様子をみてたぞ、お前やってんだろ、違うなら何が違うか説明してみろよ」

男性は答えない。

「怪しいのはすみませんでした」
「でも、何もなかったじゃないですか」


男性は開き直りだした。
少しずつ、動揺が減ってきている。




電車が駅に到着して、また発車する。




スマホを取り上げて、中身を見ていけば見つかるのかも知れない。
しかし、警察官の職務質問じゃあるまいし、なんの権限もない。

取り上げられたスマホの何かの機能が壊れたと言って、今度はこっちに言ってくることもできる。もっているスマホが1台とは限らない。

押せば、暴力。
凄めば、脅迫。
胸ぐら掴んだら、完全にアウト。
そこで通報されると面倒だ。


肝心なことは、こちらが何かのカメラで撮影していたという確固たる証拠がない。


様子を動画撮影もしたが、少し離れたところからの様子。
当然一コマの様子をこちらが見ただけではこんなことはしない。
しばらく様子を見てはいる。
限りなく黒に近い、黒。



しかし、



電車が駅に着いて女子高生が動いた後に位置を修正したのも、鞄を置くときだけ振り返って置く位置と開いた口の向きを合わせたのも、決定的なものではない。

声をかけたときに見た鞄の中身はまじまじとは見ていなくて、かつカメラが確実に作動している状況は確認できていない。当初は赤いランプでもついてるんじゃないかと思い込んでしまっていた。
スマホなのか、小型カメラが他にあるのか、それもわかっていない。


つまり、影は踏んでも尻尾は掴んでいなかった。


「はやく録ったやつをだせよ」

筆者ができることは、この男性が自分でやりましたと証拠を見せて、それを警察につきだすことぐらい。




なんだこれ、けっこう無力だな。




電車はまた別の駅に到着した。



少し後ろで、様子を見ていた女子高生3人が、駅の表示を見て、はっとする。
どうやら、目的駅に着いたらしい。
こちらに会釈して降りていき、車内で立っているのは、筆者と男性だけになった。



もう、映像も消しているのかも知れない。
踏み込んで探そうとしてこないことに、安心しているのかもしれない。
こういうのに慣れた警察なら、最初にうまく確認して取り押さえるんだろう。

しかし、通報するにもタイミング的にも、時期を外した感が否めない。
女子高生も帰ってしまった。

男性は、謝ってくる。怪しい動きをしてすみませんでした、と。
謝る相手がおかしいが、そんなことはお構いなしのようだ。



女子高生が降りた今、ここだけ見れば、完全にオッサンの筆者が絡んでいるだけ。



ほんと、何やってんだろ。
あ、そうか、問い詰めてたんだ。




窓越しにターミナル駅のホームが流れてきて、やがてとまった。
これ以上時間を費やすのは、どうも無駄な気がした。
だから、その場に両手でスマホを操作している男性を捨て、電車を降りた。


もやもやとしたまま、なんとも言えないやるせなさだけが残った。





後で適当に検索してみた。
筆者が見た、鞄の中で光っていたスマホの白い画面は、画面を照明に出来るアプリだった。
バックグラウンドにしたカメラに表向きは照明だけにして撮影してるか、小型カメラがあったのか。
そんなところなんじゃないか、と。



何がよかったんだろうと、ふと思う。
見て見ぬ振りをしておけばよかったのか。
なんだかそれはなぁ、と釈然としない。

かと言って、確実なものがなければこっちにはリスクしかない。
筆者自身の鞄を2人の間に置いて、物理的に遮断したらよかったのか。それで反応を見るぐらいにしてみたら、よかったのかも知れないな。


後編終わり。







久しぶりの記事らしい記事は、なんとももどかしいものとなってしまいました。
また、綴ります。

ご訪問ありがとうございました。
またのお立ち寄りを、お待ちしております🙇


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ブクマコメントありがとうございます!
>テイルズ(id:MyStory)さん
おかえりなさい!
こういうのがあると、次はもう少しうまくやりたいな、と思ってしまうのが人の性ってやつですね😅
>まっこおばさま(id:makkosan70)
ある意味警察よりもヤバいというような感覚をもたせたかったんですけど、失敗に終わりました😅
探して見たらけっこう見つけるかもしれません。
>相続コンサルタント (id:egaosouzoku)さん
そうなんですよね、その決めてって何?みたいな。ただのおせっかいじゃあ炎上しますし😓
たぶんたくさんいるんだと思います。この時は普段の阪急ではなく、JRだったのは関係しているかも知れませんが。
>S (id:odanoura)さん
たぶん、リスクや法律を考えずにやれば、うまくいくこともあるかもしれませんが、面倒なことにも巻き込まれます。警察も時間がかかるので、皆そんなことしないんでしょう。
いろんな方のコメントを見て、次はSLAM DUNKの流川ばりに、「手がすべった」ならぬ「足がすべった」と言って鞄を蹴っ飛ばしてやろうかと思います笑