ジローの部屋

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日頃の生活に、何かプラスになることを。

【読み切り短編小説】水色の空が、オレンジ色にかわるとき

いらっしゃいませ。ご訪問ありがとうございます。
こんにちは、ジローです。
いつもたくさんの星、ブクマやコメント、本当にありがとうございます!
おかげさまで、筆者はぼちぼちとこのブログを続けられています。


さて、今回は、これまでとは違った短編を書いてみました。
これまでのお話は、それはそれということで。

このお話は、全く別物の読み切りです。


では、どうぞ。








 4月から新しい生活が始まった。


 亜紀は、社会人になって3年目。最初の2年の赴任地は終わり、新しい事業所に転勤となった。実家から通っていた最初の事業所は、通勤時間が2時間近くになるため、やむなく一人暮らしを始めることにした。

 世話焼きの母親が心配しながら新しい部屋を探し、一度そこに行ってみて駅までが近いのと夜遅くまで開いているスーパーが近いのとで、即決した。
 新しい家に住んでみると、いつも話しかけてきた母親がおらず、がらんとした1DK が待っている。

 遅めの夕食をとり、さっとシャワーを浴びて寝るだけの部屋。休日は休日で仕事に必要な資料をまとめながらカフェで遅めのブランチをとる。仕事で必要な作業を終わらせてから、部屋に戻ると、またがらんとした1DKが待っていた。


 5月になった。新緑の空気が香るカフェで、いつものようにブランチをとり、ノートパソコンと格闘する。そして、「よしっ」と独り言ちて、ノートをたたみ、帰ることにした。
 部屋に戻ると、またいつものがらんとした1DKが待っていた。
 

 その日、亜紀は何気にステレオを起動させた。
 ステレオは、随分と久しぶりに音を立てて起動し、最後に選局されていたFM が流れ出す。
 ちょうどラジオの DJ は、リスナーからのメッセージを読み上げ、リクエストに答えながら、「新生活」に関する企画を進めていた。
 寄せられたメッセージは、「大学に入学しました」「転勤になりました」「一人暮らし始めました」など、新しい環境に移った人からのものばかりだった。



 リクエスト曲のあと後、ラジオの DJ が
「この心境、わかるのよねぇ」
と切り出してから、メッセージを読み出した。

「あきちゃーん」
といい、DJ は、クスッと笑う。亜紀は、
「えっ」
と思わず声が出た。
 DJは続いて、
「新生活どう?ちゃんとご飯食べてる?コンビニばっかりはダメよ。」と話しかけるように、DJ は続ける。
そして、
「一人で寂しい時はさ、ラジオをかけるといいよ。お母さんもみな学校とかでいなくなってから、よくしていたから。聴きながら、用事も出来るしね」
と DJ は言い、「そうそう」と自分で相づちを打っている。
「あきちゃん、頑張り屋さんだから自分を追い込みすぎないようにね。適度に抜かないと、体壊すよー。
じゃあね、チャオ🐧」
といって、
「○○市のあきちゃんママからでした~」
と締めた。
「うんうん、わかるわかる。この気持ちなのよねぇ」とDJは言って、頷きながら話していた。
「リスナーの皆さんに、伝わらないので補足すると、チャオの後にペンギンの絵文字があってさ、これがまた可愛いのよ」と紹介する。
 そして
「あきちゃん、1人暮らしどうなのかな?このラジオ聴いてくれてるかな。頑張りすぎずほどほどにね」とDJ は彼女からのメッセージをリスナーの娘に伝えて、次のコーナーへと話題を変えていった。


 亜紀は一人で、ステレオの前で佇んでいた。ひとりでに頬を温かなものが流れていく。

チャオという挨拶。
そして何より、ペンギンの絵文字。



 亜紀は目頭を拭って、ベランダに出て外を見た。
 よく晴れた日。
 高架の線路の向こうにはマンションが並んでいるが、とある一角は建物が低いので向こうまで見渡せる。
 水田と小高い山が広がり、緑の上に広がる水色の空が、オレンジ色に変わろうとしている。風は少し吹いていて、どこか心地いい。



 ふと、LINE が鳴った。
 吹き出しには、ペンギンのアイコンが見えている。亜紀は、アイコンをタップしてメッセージを開いた。 


亜紀ちゃん、すごいこと起きたのよ!
もう、聞いて聞いて!電話していい?


 このメッセージを見て、たぶん相手には既読がついたのだろう。すぐに電話がかかってきた。


「ちょっと、聞いて聞いて。すごいのよ!
初めてなのよ!」
「うんうん」
 亜紀は鼻をすすりながら返事をする。
「ちょっと亜紀ちゃん、風邪でも引いたの?鼻声じゃないの」
 亜紀はバレないように
「大丈夫よ」
と、笑いながら返した。
「なんの話だっけ、そうそう。すごいことがあったのよ!お母さん、嬉しくって嬉しくって」
「うんうん」と言いながら亜紀は相槌を打った。



 今から母親が言おうとしている話を、自分はおそらくわかっている。だけど
「さっきも聞いたよ。それでどうしたの?」
と笑いながら続けた。

「実はね、お母さんの好きなラジオの・・・」


 
 


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