いらっしゃいませ。ご訪問ありがとうございます。
こんにちは、ジローです。
いつもたくさんの星、ブクマやコメント、本当にありがとうございます!
おかげさまで、筆者はぼちぼちとこのブログを続けられています。
さて、今回は、昨日の記事の後編になります。
昨日の記事はこちら↓
surrealsight.hatenablog.com
では、後編をどうぞ。
あの給食の出来事から、クラスメートたちは転校生との距離を縮め、大して日本語ができなくてもなんとか意思疎通を図ろうとして話しかけるようになってきた。
彼は彼で、必死に日本語を勉強して友達と話そうとする。
テレビで覚えた言葉、ドッジボールで使う言葉、関西弁の感情を表す言葉…。
筆者らは筆者らで、ポルトガル語の勉強をしたり学活の時間にブラジルの事を皆で調べて発表したりする。
新しい友達とは、仲良くなればなるほど楽しい時間が増えてくる。
そして、日が経てば経つほど、彼の転校が期間限定であったことを、意識せざるを得ない。
小学生の夏休みと言えば、それはもう待ちに待ったもので、夏休みへの突入は両手を上げて迎え入れられる。
ところがその年の夏休みは、なんだか来て欲しくない夏休みで、特に7月に入ってからは毎年とは違う雰囲気が教室の中に漂っていた。
終業式の日が近づいてき、クラスメイトが転校生のお別れ会をしようと、担任の先生に相談する。
担任の先生もこれを快く受け入れ、とある日の給食前の4時間目の1時間をお別れ会に当ててくれた。
お別れ会はとても楽しかった。
ゲームがいくつか考えられていて、全員で楽しんだ。
そして転校生の彼には内緒で作っていた寄せ書きを最後に渡して、終業式まであと数日はあるけれども、彼はそこで別れの挨拶をした。
相変わらずたどたどしい日本語だけれども、元々があまり話せないからなのか、あるいは別の意味があるからなのか、彼は時々詰まりながら、感謝の言葉を繋いでいった。
彼は、
学校で友達ができるか不安だったこと、
友達ができて学校に行くのが楽しくなったこと、
みんなと休み時間に遊んだり、一緒に勉強したり、給食を食べたりすることがとても楽しかったこと、
などを話していた。
教室の中は、彼の声と、誰かの鼻をすする音だけが響いている。
その時誰かが、
日本に帰ってきたらまた一緒に遊ぼうよ
と声を出した。
すると、次々にクラスメートは声を上げて、また帰ってこいよと言う。
筆者らも、転校生の彼も、おそらくもう、次に会うことがないということは、子供ながらに薄々は分かっている。
でも、だからといって、じゃあな、と言って終わりたくなかったんだと思う。
彼は精一杯の笑顔を作って、
うん、またね
と答えていた。
いつのまにか4時間目の時間が終わっていた。
先生が給食の時間です、と仕切り直し、慌てて給食当番が、白色の割烹着に身を包み、給食を取りに行って配膳する。
その日のメニューは覚えていない。
ただ、デザートには『冷凍みかん』があった。
そして、やはり、冷凍みかんの対決が行われることになる。
筆者 対 転校生。
教室の中は、さっきまでのしんみりとした空気と打って変わり、いつも通りのバカみたいな盛り上がりを見せていた。
審判を名乗り出る者がいて、筆者と転校生は教室の真ん中で机を向かい合わせ、冷凍みかんの皮をむき、位置に着く。
さっきまでの喧騒が、だんだんと落ち着いてき、教室の中は審判を名乗り出た、お調子者の男子の声だけが聞こえるようになった。
よーい、スタート
勢いよく振り下ろした手と共に、合図が切られた。
勢いよく口の中に、二人はシャリシャリの冷凍みかんを放り込む。
冷凍みかんは凍っているため、やはり、冷たい。
口を押さえて悶絶する、二人。
なんとか咀嚼しようと、試みる、二人。
そんな二人を見て、クラス全員が大爆笑する。
二人とも冷たさに耐えているせいか、涙を流しながら、ウーウーと声無き声を出しながら、二人で目を合わせて少し笑いながら、必死にみかんを食べ切った。
その勝負は、引き分けだった。
夏休みが明けて、しばらく経った頃、地球の反対から一通の手紙が来た。
表の文面は、アルファベットで何か書かれてあって、小学生だった筆者らは、何て書いてあるのかがよく分からない。
中身を先生が披露し、読み上げる。
そこには、ブラジルで頑張っていることと、日本の学校で楽しかった思い出や、感謝が彼なりの言葉で、たどたどしい字で書いてあったようだった。
皆その文面を聴きながら、転校生を思い出し、笑ったり、野次ったりしている。
彼との思い出は、皆色褪せていない。
そして手紙の最後には、こう書いてあった。
「やっぱりみかんは、冷たかった。」
後編、終わり。
お問い合わせはこちら
surrealsight.hatenablog.com