ジローの部屋

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【短編小説】 増本優芽の事情②

いらっしゃいませ。ご訪問ありがとうございます。

こんにちは、ジローです。

たくさんの星、ブクマやコメント、本当にありがとうございます!

おかげさまで、ぼちぼちとこのブログを続けられています。



さて、今回は、昨日から始まった短編小説の続きです。
第1話はこちら↓
surrealsight.hatenablog.com


では、第2話をどうぞ。





「はい110番です。事件ですか、事故ですか」



いきなり質問されて、増本優芽はたじろいだ。

えっと、これって事故みたいなんだけど、事件…よね。
優芽はそう思いながら
「えっと、あー、事故なんですけど、事故じゃなくて」
「自転車が車とぶつかって…。車がいなくて…」

「車がいない?車が逃げたのですか。あなたは当事者ですか?ケガはありますか?」

矢継ぎ早に質問されて、さらに困る。

「私じゃないんです。女子高生の子が自転車で。
そうです、ひき逃げ!さっき事故があって、女子高生がケガしているんです。
この子ケガして泣いてるんで、救急車、早く救急車を呼んであげて下さい」


思いつきでしか答えることしかできない。
なんで、言葉がうまくでてこないの。


そして、スマホを耳から離して、女子高生に
「大丈夫?」
ともう一度声をかけた。


よく見ると自分も通っていた、近所の高校の制服だ。
彼女は痛そうに足を抱えて、泣いている。

電話の向こう側の110番の人には、このやりとりが聞こえていたようだった。


「わかりました」

と一呼吸入る。


そして、
「では、順番にお聞きします。今はどちらにいますか、近くに何か目印の建物はありますか」と少しテンポを落として質問された。

「あ、はい。えっと、家の近所なんです。私の住所は〇〇で」
「わかりました、こちらの画面で、今、地図を確認しています。増本さんのお宅ですね、確認できました」

優芽は続けて説明する。
「家の前に田んぼの畦があって20メートルほど進むと道路があってすぐそばに交差点があるんです」

「なるほど、この変則の4差路交差点ですね」
「そうそう、あぶないところなんです」
「わかりました、すぐに救急車の手配をします。
 女子高生の子のケガはどうですか?意識はありますか?」
「えっと、足から血がでていて、泣いています。立てなさそうです」




「救急車の手配できました。続いて逃げた車を教えて下さい」

えっ、と優芽は戸惑って、スマホを持ったままその場で時計回りをしてしまった。
良平と目が合う。

そうだ、良平。
彼女はすぐに良平に聞いてみた。


良平はまだ興奮している。
「白い車。四角い車。男の人が乗ってたよ。
その車ちょっと止まってたんだよ。でも僕が、お姉ちゃんのところに走って行ったら、急に向こうに行っちゃった」
「え、そうなの」と優芽はあまりにもリアルな状況にびっくりする。


110番の人は、この会話も聞こえていたようだ。
「わかりました、手配をかけていきます。
現在近くのパトカーに指令しています。まもなく到着しますのでそのままお待ちください。女子高生の方が落ち着いているようであれば、保護者や学校に電話できるか聞いてもらえませんか。
お手数ですがご協力をお願いいたします」


たどたどしい会話は、ちゃんと整理された情報になっていった。
ただ、すごいな、と感心している場合ではない。


女子高生の子に親の連絡先を聞き、優芽は代わりに自分のスマホで電話をかけた。
女子高生の子が、少し落ち着いてくる。
ただ、足は本当に痛そうだ。

優芽は、救急車を呼んでいること、110番したこと、息子が犯人の車を見ていることなどを伝えた。

電話の向こうの声は、明らかに取り乱している。
無理もない、これをいきなり理解しろと言う方に無理があるもの。




程なくして、1台のパトカーがサイレンを鳴らして到着した。

ご近所さんが、サイレンと赤く光る回転灯の光を受けて、ぞろぞろとでてくる。
パトカーから警察官が2人降りて来、こちらに声をかけてきた。
少し遅れて、救急車も到着した。


女子高生はストレッチャーに乗せられている。
救急隊は総合病院を手配しながら、ストレッチャーを立ち上げて、救急車に転がしていく。

警察官は、パトカーの無線で何か言っている。
もう1人の警察官は、「KEEP OUT」と書かれた黄色のテープを電柱にくくりつけだした。
そして、
「まもなく交通課の警察官が来ます。おそれいりますが、息子さんに現場検証の立ち会いをお願いできますか。さきほど救急車で、被害者の子が行ってしまわれたので、状況を見られたのは息子さんだけのようですので。」


良平を探すと私の足の後ろに隠れていた。


「この子、引っ込み思案なので、上手く説明できるかどうか…」
あぁ、もう。こんなところでも引っ込み思案が顔を出している。


その時、後で来たバイクの警察官が
「事故係、臨場しました」
と無線で話していた。

ワンボックスの大きなパトカー。
車が止まると、屋根に
「事故→」
という表示が付いた。

運転席から若い背の高い警察官が降りてくる。
助手席からは少し年配の警察官。
2人とも腕には、他の警察官にない、見守りをしている交通安全のおじさんがつけている緑の腕章を巻いていた。



パトカーの警察官が、何やらその若い警察官に話をしている。
年配の警察官は、壊れた自転車を見て、写真を撮りだした。

そして、若い方の警察官がこちらに声をかけてきた。
「増本さんですか、ご協力ありがとうございます。お子さんが状況を見られたと伺いました。お忙しいところ恐れ入ります」
優芽はどんな人が来るんだろうと緊張していたが、想像と全然違ってその警察官の物腰は柔らかい。

彼は、雨宮淳一朗と名乗った。




彼はこちらに一度断りを入れてから、年配の警察官と話をして自転車を確認し、道路の状態を見て、頷いている。
自転車に、白い塗料が付いていると言っている。


そうして、彼は優芽達がいる場に戻ってきて、良平に声をかけた。


良平はさっと優芽の足の裏に隠れる。


それを見た、彼は膝をついた。


優芽は、「あっ、ズボンが汚れてしま…」
と言いかけると、彼は「おかまいなく」と言って、それを左手で遮った。

そして、目線を良平に合わせて、こう言った。


「良平君だったね、ありがとうね、おまわりさん助かったよ。」
良平のズボンを持つ力が、強くなる。



彼は良平の様子を見ながら、ゆっくりと続けた。


「突然のことでびっくりしたね。自転車のお姉ちゃんは救急車で運んでもらったよ。
お医者さんにしっかり診てもらうよ。お姉ちゃんのケガ、ちょっと心配だね。」
と話し、
「おねえちゃんけがしているのに、ほったらかしにして許せないよね」
と言った。

良平は、ズボンを強く握りしめている。



ただ、コクリと頷いた。


「おまわりさんは、逃げた悪い人を絶対に捕まえる。頑張るよ。」

良平のズボンを持つ手の力がさらに入る。



彼はまた、少し間を置いた。




「だからね、良平君が見たことをおまわりさんに教えて欲しいんだ。
そのために…」

「ちょっとだけ、頑張れるかな?」

雨宮と名乗る警察官は、片目をつぶって右手でちょっとだけを表現しながら、語尾を上げた。



ズボンを掴んでいた力は入ったまま。
良平はキリッと口を真一文字に結んでいる。


ズボンを掴む手は、わなないていた。





そうして、ふいにズボンを掴む力が緩まる。



優芽は、驚いて良平を見た。
良平は、まだ少し唇を震わせている。
ただ、彼の目は雨宮と名乗った警察官を見据えていた。




そして、小さく
「うん」
とつぶやいた。



雨宮と名乗った警察官は「ありがとう」と言って微笑みかけ、良平の肩をポンポンと叩く仕草をする。





良平は、堰を切ったようにしゃべりだした。




第3話へ続く。

【加筆】4月8日細部若干修正


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